2010年1月11日月曜日

銀座ナンバー1「筆談ホステス」斉藤里恵さん独占取材(1)

筆談に不景気は関係ない 
終電間際の銀座駅。髪を結った色っぽい女性が多く乗り込んでくる。どこか華やぎを持つその風情は、電車内の大勢を占めているサラリーマンやOLたちとは一線を画し、車内の空気を一瞬にして変えてしまう。 夜の銀座に800店あるとも言われるクラブもバタバタと倒れて姿を消していく中で、生き残り組が経費節減のために電車で帰宅しているからだという。客足も遠のき、店が終わってからの同伴のアフターも減った。電車通勤はホステスさんなりに、考えたささやかな経費削減のサバイバル術でもある。 しかし、そんな銀座でも勝ち組はいる。しかも、それが健常者ではなく、耳が聞こえないために通常の会話ができない人だとしたら。そんなことが信じられるだろうか? そう、自身の半生を描いた著書「筆談ホステス」がたちまちベストセラーとなった斉藤里恵さん(25)だ。 里恵さんは美形で、にこやかな笑顔が似合う小柄な女性。コミュニケーションを取るために、声を発することはできない。常にメモとペンを携帯している。里恵さんにとって、この2点セットを「相方」と呼べる存在だ。相手のセリフが書かれたメモと唇の動きを読みながら、メモに筆記して返す。会話のすべてが筆談だ。 YUCASEE MEDIA(ゆかしメディア)のキャリア豊富な編集陣の中でも、筆談の取材を経験した者は皆無であった。しかも健常者ではない人が銀座のホステスになったという話を聞いた者も皆無。だが、今回取材するうちに銀座ナンバー1という看板はダテではないということがよく判った。

文字が心を揺さぶる
 「筆談ですと、会話とはまた違った楽しみ方がありますし、文章や言葉によって気持ちもより伝えられることもあります」(以下セリフはすべて筆談) 里恵さんはそう答えたが、果たして本当だろうか。半信半疑に思う人も多いかもしれないが、実際にお互いの紙を見せ合うことで、まず段々と2人の物理的な距離は近くなるのを感じる。そうするうちに、お互いの心の距離感も縮まっていくのではないだろうか。 「いつも健常者の方は声を出して会話しているので、筆談が新鮮でドキドキされる方もいました。ラブレターみたいだと…。また、すてきな言葉を書いていただくこともありますよ」 会話は他人にも聞こえることはあるかもしれないが、筆談は当人同士にしかわからない。ここで秘密の会話が成り立っているのだ。2人だけの秘密を共有する楽しさ。どうしてもワンテンポ空くために動きがないように感じるが、実際に心は「もっと、もっと」と筆談による会話を欲してしまう。 ある日の接客で、こんなこともあった。「辛い」とこぼす不動産会社役員の「辛」というメモに、横線を一本足して「幸」として「辛いのは幸せになる途中ですよ」とのメッセージを送った。男性の目からは涙がこぼれ落ちて、来店時には深刻だった表情も帰る時には笑顔になっていたという。 こんな言葉を口にするなんて、と少し躊躇するような恥ずかしいセリフも筆談なら臆面なく書ける。 「『辛』に『一』を足すと幸せになりますよ」。

他に行く所がなかった 
 水商売の世界に入るきっかけは18歳の時。故郷の青森県で、高校中退後に職を探すのは容易ではなかった。元々、洋服店でアルバイトをした経験もあることから接客業が好きで、就職先にエステサロンを選んだ。しかし、そこでは客にどんどん高いコースを契約させてローンを支払い続けるというシステムに、里恵さんはすっかり嫌気が差してしまった。 「仕事探しをしたところ、耳が不自由ということでなかなか見つからず、あるママさんに『働かない?』と声をかけられて、ほかに仕事もなく選ぶこともできず、思い切ってチャレンジすることになりました」 青森では筆談形式で成功。理由あって店をやめた後に上京。事務の仕事をしたものの、やはり自分に向いているのは接客だと悟った。だが、見ず知らずの、しかも会話ができない自分を雇ってくれるのか? 最初はなかなか働かせてくれる所はなかった。しかし、助けてくれたのが青森時代のお客さん。掛け合ってくれて銀座の夜の街で働き口を得た。 「自分であんまり、No।1など自覚はありませんが、多分、負けず嫌いな性格からだと思います」とシャニムに働いた。それと同時に「日ごろから真心を持って感謝の気持ちを忘れず接しています」という事をいつも気に留めてきた。 お礼のメール、手紙、プレゼント、お中元、お歳暮。ゴルフ、同伴、アフターなど全てをマメに、そして心を込めて行う。それができなければNo।1は無理だ。銀座で働き始めて2年。里恵さんの月収は今では、不景気と言えども100万円を超える。

夜の銀座でモテるのはこんな男性 
華やかな銀座の夜。街を彩る主役はホステスたち。しかし、肝心の「お客様」がいなければ成り立たない。「入りたての頃は毎日くどかれていました」と里恵さん。ホステスは全ての客の相手をするのは当然だが、ホステスである以前にイチ女性。当然、個人的な好みは存在する。里恵さんの好きな男性を聞いてみた。1.周りの方々から信頼されている方2.人の気持ちを考えられる思いやりのある方3.お金を賢く使える方 「その3つがそろっている方です。プラス刺激的な方」 シンプルにこれだけの要素が返ってきた。ただ、上記の条件が全て揃っていて、さらに刺激的な人というのは、それほど多くはないだろう。こんな男性ならば、さぞかし人気があるはず。里恵さんの経験でかつて、こんなお客さんがいたという。 「すてきな文章にきれいな字で書かれた手紙にステンドグラス(その方の作品)が送られてきた時は、ステキだなと思いました」 この男性は何と60歳代。上記の要素を満たした上に、里恵さんの誕生日に粋な贈り物。とても刺激的だ。「わたしのお客様はそんな方が多いように思います」と里恵さん。さすが優等生。即座にこういう言葉が出てこなければ、銀座の街でNo।1を張ることはできない。 最近は「なぜか、くどかれる回数が減りました。しかし、今はくどかれないとやっていけません(笑)。『かわいいね』といつまでも言われたいです」と本心を明かした。カワイイと言われる回数は減っても、指名は途切れることはない。また別の人間的な魅力が増していっているということなのだろう。

「筆談ホステス」 そうしている間にも、今年5月発売の著書はすでに5万5000部を突破。この出版不況の時代に、である。故郷青森県の大型書店では、村上春樹氏の200万部を突破した著書「1Q84」以上の売り上げになっているという。音のない世界に生きて来たからこそ、わかることもあるのだろう。多くの人が共感し心を打たれている。 では、里恵さんがもし音を聞くことができたなら? 「ステキなお客様の声を聞きたいなぁと思います」という。もしも耳が聞こえたら違う道を歩んでいたかもしれない。実は19歳の時、一度は音が聞こえる世界を選んだことがあった。(つづく)
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