2009年2月17日火曜日

障害者の目線で服作り

デザインと快適さ 両立
障害や加齢で体の自由が利かなくなった人たちが、着やすさとデザイン性を兼ね備えた服作りに取り組み始めている。
 メーカー任せにせず、ブランドを設立したり、商品開発に積極的にかかわったり。不自由な点を当事者の視点で改良した服は、一般の人にとっても快適なものが多く、障害の有無を超えて愛用者を広げている。(上原三和)
 靴下やジーンズ、そしてウエディングドレス……。ファッションブランド「ピロレーシング」の通販サイト(http://www.piroracing.com/jeans/)では、しゃれたデザインの服を扱っている。
 一見、一般の若者向けの商品のようだが、車イス利用者が使いやすいように工夫してある。例えば、着古した風合いをわざと強調したジーンズ。車イスに長時間座っても、お尻周辺の皮膚に負担がかからないよう肌に当たる部分を1枚の生地で作り、凸凹するポケットや縫い目もなくした。伸縮性のある生地は特注品。
 「自分自身が本当に欲しい、格好のいいジーンズにこだわりました」とブランド代表の長屋宏和さん(29)。
 長屋さんは2002年、自動車レースの事故で半身不随となり、車イス生活を送っている。体が不自由になってから、大好きだった細身の服を着ると窮屈さを感じるように。障害者向けの服も探してみたが、着たい服が見当たらない。
 「だったら、自分で作ろう」と、服飾関係の仕事をしている母親の協力を得て、05年にブランドを設立した。
 実体験が随所に生かされた服は「しゃれている上、動きやすい」と健常者のファンも多い。1点数万円するジーンズも06年7月の発売以来、1000点以上売れ、体を動かす作業の多い人などから注文もあるという。「自分の体に合った服があるだけで、人は幸せを感じる。不便さを体験した人にしかできないデザインもある」と長屋さんは話す。
 服のリフォームに障害者が積極的にかかわるケースもある。千葉県中心に展開する洋服リフォームチェーン「リフォームツクダ」は今年1月、「片手ではけるGパン」のリフォームを始めた。「片手がまひしたお客さんに、着脱が楽なズボンが欲しいと言われたのがきっかけ」と、同社常務の佃由紀子さんは話す。
 高齢化社会が進む中、特別な声ではないと考え、この客に開発に参加してもらった。適当なファスナーの位置や長さ、座ったまま足を入れても、ズボンを上げることができるか――。限られた動作の中でも負担をかけない形を求め、試作品を何度も着てもらった。
 その結果、ウエストから腰の脇へ向かって切れ込みを入れてファスナーを付け、ファスナーの端に持ち手を付けて握りやすくしたリフォーム法を開発=写真=。「体が不自由な人の実体験から、私たちには思いつかないアイデアが出てくる」と佃さんは話す。
 体の不自由な人のための服作りは、服飾メーカーなどを中心に10年ほど前から始まっているが、定着しなかった。「こうすれば機能的、こういう服が障害者向きだと、開発がメーカー主導になり、利用者の視点が欠けていた」と、NPO法人「ユニバーサルファッション協会」理事長の織田晃さんは指摘する。
 「若い時のように健康な体で一生を終える人はいない。体が不自由な人たちが心地よさを求めて発案するファッションは、これからの服作りのヒントになる」と話している。

使いやすさ共感、広がる タオル、はし…誰でも心地よく
障害者の体験や感性を取り入れたもの作りは、衣類だけでなく日用品にも広がっている。老若男女、障害の有無を問わず使える製品やサービスを開発する「ユニバーサルデザイン」の理念にも重なる。
 愛媛県のタオルメーカーが、視覚障害者の団体と共同開発した「ダイアログ・イン・ザ・ダーク・タオル」も、そうした商品の一つ。視覚障害を触覚で補って過ごす機会の多い視覚障害者の繊細な感覚や感性を活用。彼らに満足してもらえるタオルこそ、多くの人が心地よいと感じられる商品になるとの考え方で開発が始まった。
 発案から製品化まで半年以上をかけ、全盲の10人が商品開発に参加し、様々な糸や織りのタオルを生活の中で使ってもらった。吸水性に加え、肌に負担のかからない手触り、心地よい柔らかさとは何なのか。10人の評価をもとに改良を重ね、3種類の異なる質感のタオルを製品化した。
 これらのタオルは昨年、優れたデザインの工業製品を表彰する「グッドデザイン賞」(日本産業デザイン振興会主催)を受賞。以来、全国から注文が相次いで寄せられているという。
 「このタオルは、障害を個性ととらえ、その感性を商品に取り入れ、一般にも広がった好例。こうした手法で開発される商品が増えていくだろう」と、同振興会の秋元淳さんは話す。
 障害者の声をもとに、食器作りに取り組むデザイン会社もある。「トライポッド・デザイン」(東京)は昨年、青森県の製材・木工業者と共同で、手の力が弱くても握りやすいはしを製作した。「スプーンや介護用品でなく、普通のはしで食事がしたい」。脳性まひで手先に障害を持つ女性から寄せられた声がきっかけだ。
 30種類近いはしを試作し、実際に女性に食事をしてもらった。自然な持ち方に見えなかったり、食べ物が取りづらかったりすれば、素材やはしの形状を変える。改良したはしでまた、使い心地を確かめてもらう。それの繰り返し。
 出来上がったのは、指を添える部分を薄く削った、細身のはし。素材には抗菌性の高いヒバ材を用いた。デザイン的にも洗練され、航空会社のファーストクラスで採用され、一般向けに販売する予定もあるという。
 「『どんなものなら使いたいか』を出発地点に、商品開発を行う時代。その開発の際、障害者や高齢者の声も欠かせない。毎日使う日用品こそ、開発段階で多様な声や感性に耳を傾けなければならない」と、トライポッド・デザイン代表の中川聡さんは話している。
2009年2月17日付 ( 読売新聞)
続きは・・・http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/kyousei_news/20090217-OYT8T00265.htm

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