2010年11月21日日曜日

介護保険改革 利用者の視点に欠ける

保険料の伸びを抑えるには、利用者の負担増とサービスの抑制に踏み切るほかない-。厚生労働省はこう言いたいのだろうか。

 2012年度の介護保険制度の見直しに向け、厚労省が財源確保のため、負担増の検討を求める素案を社会保障審議会の介護保険部会に示した。

 所得の高い利用者の自己負担を現行の1割から2割へ引き上げることを求めている。介護の必要度の軽い利用者に対し、調理や掃除などの生活援助サービスの縮小を検討することも盛り込んだ。

 介護保険の費用は年々膨らんでいる。負担増は避けられない。だが、それを一部の利用者にかぶせるのは邪道である。

 介護を必要とする人が、金銭面からサービスの利用を控えるおそれがある。介護の負担を社会で支えるという制度の理念もゆがむ。

 厚労省は目先の財源確保に気を取られ、肝心の利用者の視点が抜け落ちている。再考を求める。

 誰しも介護が必要になる可能性がある。そのリスクを健康な人も含めてみんなで支え合う-。それが介護保険の考え方である。負担増は、税や保険料のかたちで広く分かちあうのが望ましい。

 自己負担の引き上げを高所得者に限るのは、説得力に欠ける。介護が必要な人は、介護保険以外にもさまざまな出費が要る。病院にかかっている人も多い。安易に負担増を求めてはならない。

 生活援助サービスも、縮小すべきではない。認知症で一人暮らしをしている高齢者や、ともに要介護状態にある老夫婦が少なくない。こうした家庭にとって、調理や掃除、洗濯といった生活に密着した支援は命の綱だ。これを失えば、重度化が進むおそれがある。

 厚労省内には「家政婦代わりに使っているのでは」との批判があるという。利用の仕方に問題があるなら、個々に改めればよい。

 素案は大事な論点を避けている。介護保険部会では、現行5割の公費負担を6割に引き上げる意見が出ていた。

 高齢化が進むなか、介護保険の給付はこの先も増え続ける。持続可能な制度とするには、安定財源の確保が欠かせない。公費投入の拡大は有力な選択肢の一つだ。

 公費投入のあり方、保険料との兼ね合い。将来を見越して負担の論議に切り込まねばならない。

 介護保険がスタートして10年、介護施設は不足し、在宅サービスも十分ではない。制度の充実が急がれる。「利用者本位」の原点を忘れないでもらいたい。
2010年11月21日付(信濃毎日新聞)

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