児童養護施設などに匿名でランドセルなどの贈り物が届く「タイガーマスク現象」。県内でも各地の施設や市町村などに次々と善意が寄せられた。それと軌を一にするように、厚生労働省は人手不足に悩む施設の職員配置を約30年ぶりに見直し、増員させる。現場からは「子どもたちに代わり、タイガーマスクが声を上げてくれた」との声も聞かれ、児童施設への関心が高まることを期待している。
■善意の連鎖
「これはこうやって投げるんだよ」
今月中旬、おもちゃやクレヨン、児童書などが届いた長野市松代町の児童養護施設「恵愛学園」。2、3歳児が次々と駆け寄り、段ボール箱の中からフライングディスクを取り出した幼児はこう言ってはしゃいだ。
贈り主の名前は分からないが、各地での動きに共鳴した人からのプレゼントだ。
県内には15の児童養護施設や4つの乳児院がある。これらを含め計21の施設でつくる県児童福祉施設連盟によると、17日までの匿名の寄付は17施設にあり、現金は計68万8500円、ランドセルやコメ、文具などを贈ったのは58人に上る。
これまでは、地域の篤志家や施設出身者が大半で、今回のように見ず知らずの人たちから匿名の寄付が届くのは初めてという。
山岡基志会長は「施設にはどんな子どもたちが暮らしているのかを、知ってもらうきっかけになった」と喜ぶ。
■息長い支援を
タイガーマスク現象は、施設の厳しい経営実態を広く知らせることにもなった。
国の規定では、子どもの食事や衣服に充てる1人あたりの生活費は、月額4万7430円にとどまる。教育費や修学旅行費は別に加算されるとはいえ、部活動の遠征費は該当せず、学習塾に通えるのも高校受験を控えた中学3年生だけ。
施設の人手不足も深刻だ。恵愛学園の戸谷隆典園長は「何が一番困るかと言えば、職員が足りない」と話す。
国の職員配置基準は、入所者が小中高校生の場合は子ども6人に1人。しかし、子どもたちの親代わりにもなっている職員の日常的な責任は重く、心身ともに負担は大きい。
県は人件費のおよそ半額を独自に補助し、4・7人に1人の割合にしているが、それでも不足している状況といい、関係者は「若い職員の意気込みに頼る状態」と打ち明ける。
寄付は、県と市町村の社会福祉協議会、県共同募金会などで受け付けている。寄付先の施設の指定や、「学用品の購入に使ってほしい」といった目的を限定することも可能。施設側のニーズを把握して行えば、より有効な寄付にもなるという。
「子どもたちを励ましてもらうことが自立につながる」。戸谷園長は今回の現象を歓迎し、こう呼び掛けた。「寄付をしてくれた人に、子どもたちと一緒にお礼を言いたい。いただける場合は連絡先だけでも知らせてほしい」
(柚木まり)
【児童養護施設と乳児院】 経済的な理由や虐待などで保護者と一緒に暮らせない子どもたちが生活する。県内では、2歳未満は乳児院、2~18歳までは児童養護施設。1月1日現在、県内4の乳児院で49人、15の児童養護施設で628人が共同生活を送っている。虐待を理由に入所する児童は増加傾向で、半数近くを占める施設もある。臨床心理士によるケアを含め、きめ細かな支援が課題になっている。
<県内の児童施設などへの主な寄付窓口>
○県社会福祉協議会
長野市若里7-1-7/電026(228)4244
○県共同募金会
長野市西長野143-8/電026(234)6813
○県児童福祉施設連盟
長野市松代町東条2480-1/電026(278)2556
※このほか各市町村にも社会福祉協議会がある
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