2008年11月16日日曜日

高齢者の犯罪―孤立させない手助けを

 耳の遠い人、軽い認知症が見られる人がいる。食べやすい刻み食が欠かせない人もいる。
 どこかの老人ホームの話ではない。いまの刑務所の実情だ。そこに入る高齢者が増え続けているのだ。
 昨年、交通事故を除く刑法犯罪で検挙された約37万人のうち、65歳以上の人は約4万8600人だった。10年間で4倍近くに跳ね上がった。お年寄りの人口の伸びをはるかに上回っている。
 何がお年寄りを犯罪に走らせるのか。今年の犯罪白書から二つの大きな要因が浮かぶ。
 まず経済的な苦しさだ。
 お金と住む家に事欠いて、盗みに走る高齢者がいる。お年寄りは、働きたくてもなかなか雇ってもらえず、アパートも借りにくい。そんな暮らしにくさが、時に事件の引き金ともなる。
 もう一つは社会での孤立だ。
 白書によると、罪を重ねた高齢者ほど独り身の割合が高く、親族との音信も途絶えがちだという。
 家族や地域とのつながりを失った高齢者は、追いつめられやすい。孤独や喪失感が募る。困ったことがあっても、だれにも相談できない。
 ある67歳の男性は、刑務所を出て所持金が底をついたとき、「福祉に頼ろうとしても、どこに相談したらいいのかわからない」と盗みをした。
 路上生活のはてに万引きや無銭飲食で捕まり、「刑務所なら寝床と食事がある」と語った70代や80代もいる。
 残念で、やりきれない現実だ。もしも誰かが親身になって相談に乗っていたら。そう考えずにはいられない。
 犯罪は社会を不安にする。犯罪が増えれば、それだけ多くの被害者が生まれる。受刑者の更生にかけるコストも膨らむ。
 塀の中の高齢化は、本人にとっても社会にとっても不幸なことだ。
 高齢者の犯罪を防ぐには、摘発や防犯対策だけでは足りない。
 かぎを握るのは、刑務所と医療・福祉関係者との緊密な連携だ。
 受刑中から出所後の住まいや生活手段について、もっと手厚く相談に乗らねばならない。福祉担当者も加わって、職探しを手伝い、身よりがない人には老人ホームや更生保護施設を探してほしい。
 地域社会でもできることはある。
 民生委員だけでなく、住民もお年寄りが孤立しないよう目配りする。生活に困っていないか声をかけ、生活保護など福祉への橋渡しをする。NPOの力を借りる手もある。
 手間はかかるが、高齢者の暮らしを安定させることで犯罪を防げるなら、世の中にとっても望ましい。
 日本社会の高齢化はますます進む。対策は待ったなしだ。
続きは・・・http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit1
2008年11月16日付(朝日新聞)

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