2008年8月28日木曜日

マイカー改造 生活に幅

 茨城県郊外の一軒家。体重25キロのA君(10)を乗せ、人工呼吸器や吸引器を積んだ特製バギーが、ウッドデッキに顔を出した。横付けされた乗用車は、助手席を外した日本初の福祉用改造車。バギーは母親(36)の手に押されて板のスロープを渡り、空いたスペースにすっぽりと納まった。
 「今年はこれで養護学校にも通いました」と、母親が笑顔を見せる。主治医の「生きいき診療所」(結城市)所長の冨山宗徳さん(34)も「順調ですね」と声をかけた。
 A君は、出生約10万人に1人の先天性ミオパチーという難病で、呼吸や食事などにかかわる筋肉を収縮させる力が弱い。生後すぐに自治医大病院(栃木県下野市)に入院し、1歳で人工呼吸器をつけた。栄養も鼻から胃に入れたチューブで補給する。起きている間は5分に1回、唾液(だえき)の吸引が必要だ。
 状態が安定したため、2000年に退院して、自宅に戻った。月2回往診を受けるようになった。昨年1月、母親は何気なしに冨山さんに相談した。
 「息子と2人だけで乗れる車があればなあ」
 養護学校に通い同世代の子供たちとふれあう時間が増えれば、息子も喜ぶはずだ。一緒に買い物にも行きたい。しかし、頻繁に唾液を吸引するので、車で移動するには、運転手と吸引係の2人が必要だ。
 「助手席が外せればいいのだけれど……」。母親の言葉を受けて、冨山さんは全国の福祉車両改造会社と連絡をとったが、助手席を外した「前例」はなく、誰もが首を横に振った。
 ただ一社、北海道・帯広市の「福祉車両のイフ」が応じてくれた。自動車検査独立行政法人(本部・東京都)とやり取りの上、「助手席の位置にバギーを乗せることは問題ない」という許可を得て、同年5月に改造車が完成。改造費はわずか16万円だった。
 母親は左脇のA君の状態を観察しながら車を走らせ、必要になれば路肩などに車を止める。鼻と口に順にチューブを入れ、慣れた手つきで唾液を取る。母親の顔が見える安心感からか、A君の表情は明るい。
 「閉じこもりがちだった生活の幅が大きく広がりました。生活上の問題を相談できる主治医のおかげです」と母親は話す。超重度障害の子供を自宅で支えていくには、関係する人のちょっとした工夫と努力が大きな助けになるようだ。
続きは・・・ http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/renai/20080821-OYT8T00214.htm
2008年8月21日付(読売新聞)

0 件のコメント: