2007年12月16日日曜日

医療ルネサンス

在宅のデザイン 訪問看護

一時預かり」で家族楽に

 懐メロが流れる古民家のような木造の大広間。午後6時。群馬県伊勢崎市の訪問看護ステーション「きらくな家」で、2泊3日の宿泊を終えた河原井源次さん(89)が帰り支度を始めた。車で約20分の桐生市の自宅に送ってもらう。その表情は穏やかだ。

 自動車販売会社を営む傍ら民具を収集、コレクションを市に寄贈した河原井さん。3年ほど前から認知症などが進み、日常生活に全面介助が必要な要介護5になった。

 体がこわばり硬直する。飲食がうまくできずに、栄養や水分を腹部の穴から直接チューブで胃に入れる「胃ろう」も作った。急に怒り出すことがあり、夜も頻繁に目を覚ます。
 妻の満津枝さん(82)や近くに住む息子たちが2年間介護を続けたが、満津枝さんの体調も悪い。要介護の高齢者らが短期間滞在するショートステイも、河原井さんの症状が重く、受け入れが難しかった。

 「体力の限界。このままでは共倒れする」。昨年11月、「きらくな家」に通うようになった。

 訪問看護ステーションは通常、患者の家庭を訪問する役割を持つが、この施設は患者の一時滞在も引き受ける。河原井さんは、ここを週4日利用する。

 滞在中は、看護師の目が届く広間のベッドで過ごす。胃ろうのチューブから水分を適量入れ、皮膚のただれや小さな床ずれも早い段階で処置する。唾液(だえき)などが気管に入って肺炎を起こす恐れがあるため、歯ブラシで口の中を清潔に保つ。

 みんなと気楽につきあえるステーションを――。きらくな家は、代表の看護師、中里貴江さん(49)が2000年に建て、一時預かりを始めた。現在は、昨年度始まった「療養通所介護制度」を活用する。

 この制度により、日中に5人までを預かる。河原井さんら2人は宿泊するが、夜間は中里さんら3人が順番に泊まり、「ボランティア」で対応する。

 一方、河原井さんが自宅で過ごす間は、中里さんらが週8回、たんの吸引などのため訪問看護する。

 「これはたんが切れない時のせきの音。吸引が必要です」「熟睡後は精神的に落ち着き、『銀座の恋の物語』を口ずさむこともあるんですよ。歌は発声や食事の訓練にもつながります」。中里さんは、河原井さんが滞在中に得た情報を満津枝さんに伝える。

 介護保険を使っても、訪問看護分を含めた自己負担は15万円を超える。それでも、満津枝さんは「きらくな家がなければ、私たちの生活は維持できなかったでしょう」と言う。

 河原井さんが自宅に戻ると、娘や孫たちが次々に顔をみせ、声をかけた。「おとうちゃん! お帰り!」

 療養通所介護制度 訪問看護ステーションを利用して重度の要介護者を日中預かる。家族の休息や、患者が安心して外出できる機会を増やすことなどが期待される。全国51の訪問看護ステーションが実施しているが、宿泊を行う施設は数か所。費用は6時間1万円など。<続く>

2007年12月5日付 (読売新聞)

続きは・・・http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/renai/20071205-OYT8T00059.htm

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