2007年12月15日土曜日

医療ルネサンス

在宅のデザイン 訪問看護

独り暮らしの健康 支え

 1972年に建てられた団地。3Kの部屋には、風呂も冷房も呼び鈴もない。
 菰池(こもち)徳五郎さん(91)は、東京都東久留米市のこの団地で独り暮らし。子はおらず、3年前に妻(当時85歳)にも先立たれた。

 「でも寂しくはない。美人に囲まれているからね」
 
 菰池さんは、月6回やって来る「北多摩訪問看護ステーション」(東京都清瀬市)の看護師、市川政恵さん(48)にそう語りかけた。

 地元の「さいわい町診療所」院長で月2回訪れる矢沢智子さん(60)、食料品の買い出しなどのために週2回来るヘルパー、週4回昼食を運ぶ有償ボランティアも、みな女性だ。

 菰池さんは、要介護度では身体に不自由のない「要支援2」だが、多くの病気を抱えている。心臓病、糖尿病、血圧も高い。1999年、息苦しさから心臓病と分かり、訪問看護などを利用し始めた。

 ふらつき、両足のむくみがひどく、足や背中は老人性乾皮症でかゆい。飲んでいる薬は6種類。右の耳は聞こえない。

 30分の訪問看護の間、市川さんは菰池さんの血圧や体温を測り、聴診器で胸の音を聴く。結果を矢沢さんにファクスで報告し、足のむくみがひどければ、携帯電話で写真を撮って送る。

 「お薬、きちんと飲んでる?」「みそ汁や梅干しで不足ぎみの塩分も補ってね」。足腰がこれ以上弱くなると転倒の恐れがあるため、イスから5~10回立ち上がるリハビリを行ったり、部屋の中を歩いてもらったりもする。

 さらに気を配っているのが、菰池さんの不安神経症だ。外出や入浴を怖がり、ベッド上で過ごすことが多い。天候が悪い日や外出が必要な時、めまいやふらつきが悪化し、時には泣くなどパニック状態になる。

 渋谷で本の露天商をやっていた若い日のこと、窓から見える風景のこと……。市川さんは菰池さんの話に聞き入り、リラックスできるようにする。

 入浴や仲間づくりが必要と考えた市川さんは、柱にしがみついて嫌がっていた菰池さんを説得し、老人デイサービスセンターに通うようにした。菰池さんはようやく入浴できるようになり、「今ではセンター通いが生きがい」になった。昨年7月からは通う回数も週2回に増えた。

 訪問看護師と開業医に健康を支えてもらう暮らし。「私は愛されている。だから、それにふさわしい人間になれるよう頑張りたいです」と目を細めた。

 看護師が家庭を訪れ、患者の生活に密着して支える訪問看護は、在宅医療の柱の一つとされる。各地の取り組みを報告する。

 訪問看護ステーション 全国に5454か所ある(昨年9月現在)。日本訪問看護振興財団の調査によると、1か所の平均看護師数は8.4人(うち専従2人)。1か月の平均利用者数67人、平均訪問回数は388回。採用難が続いており、昨年1年間の実績は、「0人」が約29%、「1人」「2人」が計約51%に上っている。 <続く>

2007年12月3日付(読売新聞)

続きは・・・http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/renai/20071203-OYT8T00061.htm



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