2008年9月10日水曜日

自律訓練で緊張を解く

 5年前から腹部に不快感があり、下痢を繰り返した青森県の50歳代の男性会社員は一昨年、下痢が一日何度も起こるようになり、受診した弘前大学病院(青森県弘前市)で過敏性腸症候群と診断された。
 職場の人間関係でストレスを抱えて不安感が強く、食欲不振や不眠もあったため、腸の運動機能を調整する薬に加え、少量の抗不安薬が処方された。痛みなどを引き起こす腸の知覚過敏を和らげるため、少量の抗うつ薬も服用した。
 これら薬物療法と共に、ストレス対策として行われたのが自律訓練法だった。自己暗示の一種で、体を弛緩(しかん)させて心の緊張を解く。ストレスが体に影響する心身症などの治療のほか、宇宙飛行士やスポーツ選手のトレーニングにも取り入れられている。
 まず、背もたれのないイスに楽な姿勢で座る。「両手両脚が重たい」「両手両足が温かい」「額が気持ちよく涼しい」などの言葉を心の中でつぶやき、その状態を頭で描き、感じようとする=イラスト参照=。
 10分ほどの訓練を1日2、3回行うのが基本。一通り習得するには時間がかかるが、横浜薬科大学教授の佐々木雄二さんは「手足の重さを感じる最も初歩的な訓練を続けるだけでも、ストレスが和らぐ」と話す。
 訓練を続けて2か月、この会社員は下痢が治まった。「気持ちが穏やかになり、多少のことには動じなくなった」という。1人でも始められるが、最初は大学病院の心療内科などで指導を受けることが望ましい。
 薬物療法や自律訓練法などでも治らない場合、東北大学病院(仙台市)では、絶食療法を行うことがある。パソコン、携帯電話、本などの持ち込みを一切禁じられ、医師、看護師だけとしか会えない個室で10日間絶食する。水は1日1リットル以上飲むが、栄養補給は1日500ccの点滴だけ。腸を休める効果と「医師の管理下で安全に行う“修行”」の側面がある。
 絶食して3、4日たつと、9割の人が「悟りに似た境地」になるという。同病院総合診療部部長の本郷道夫さんは「ストレスや空腹の苦しみから解放され、身の回りが静かで光に満ちて見えると話す人が多い」と話す。
 絶食期間の後半は、今までの人生をノートに克明に記してもらう。「両親や知人への感謝の気持ちを深める人が多く、人との接し方や物事の受け止め方が劇的に変わる」。考え方が前向きになり、ストレスをため込みにくくなるという。
 ほぼ半数の患者で症状が改善する。治療を受けるには、絶食に耐える体力があることに加え、精神的に耐えられるかどうかをみるため、医師の面接を何度か受ける必要がある。
2008年9月3日付(読売新聞)

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