2009年6月8日月曜日

バン・クライバーン国際ピアノコン:全盲の辻井さん優勝

【北米総局】AP通信によると、米国・テキサス州フォートワースで開かれた「第13回バン・クライバーン国際ピアノコンクール」で7日(日本時間8日)、全盲の日本人ピアニスト、辻井伸行さん(20)が19歳の中国人ピアニストと並んで優勝した。
 1962年に始まった同コンクールで初の盲目の優勝者で、アジア出身者の優勝も初めて。これまでの日本人最高位は69年の野島稔さんの第2位だった。辻井さんは決勝ではショパンのピアノ協奏曲第1番、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番などを演奏した。
 決勝進出者の6人には3年間のコンサートツアー(総費用約100万ドル)契約が、上位3人にはそれぞれ賞金2万ドルと録音の機会が与えられる。
 東京都出身の辻井さんは生まれつき全盲で、現在は上野学園大(東京都)音楽学部3年に在学中。1歳3カ月のとき突然、母親が口ずさんでいた「ジングルベル」をおもちゃのピアノで奏で始めたという。
 4歳からピアノ教師のレッスンを受け、最年少の7歳で全日本盲学生音楽コンクール(現ヘレン・ケラー記念音楽コンクール)のピアノ部門で優勝。05年にはワルシャワ(ポーランド)で開かれた第15回ショパン国際ピアノコンクールで批評家賞を受賞した。
 表彰式で名前を呼ばれた辻井さんは付き添いの通訳と一緒に壇上に上がり、バン・クライバーンさんと抱き合った。会場からの総立ちの拍手に満面の笑みを浮かべ、「こんな心のこもった喝采(かっさい)を送ってくれた米国の観客の皆さんに、深く感謝したい。とても幸せです」と話した。
 ◇最後まで気を抜かず
 辻井さんは「本当にびっくりしています。精神的にもきつかったのですが、最後まで気を抜かずに頑張ることができました。持っている力をすべて発揮し、みなさんに感動してもらえてうれしいです」と語った。
 ◇自由に育った豊かな音
 幼いころ、母の歌に合わせてピアノで「ジングルベル」を弾いた全盲の少年が、ついに国際コンクールのトップに上りつめた。最初の一音で聴衆の心をとらえてしまう繊細で豊かな音楽は、「ピアノを弾くのが楽しくてしかたがない」という辻井さんが多くの人と交わす、耳を通した対話なのだろう。どのような大舞台でもあがるどころか、お客さんが多いほど燃える。そんな天性の演奏家向きの資質が今回も大きな力を発揮した。
 目の見えない辻井さんに母のいつ子さんが「りんごは赤、バナナは黄色」と教えると「じゃあ、今日の風の色は何色?」と聞いたという。その感性を大事に育てようと、両親やピアノ教師は、辻井さんに過酷な練習を強いるよりは、自由に好きなものを弾かせる教育方針をとった。
 辻井さんの最大の能力は、どんな複雑な曲でも耳で聴いて完全に覚えてしまうこと。クライバーン・コンクールではアンサンブルの能力も試される。目の不自由な人は目による合図ができないため、他人と合わせることが苦手になりがち。だが、すべての音を覚えてしまう辻井さんは完ぺきにこなしていた。
 その能力について、やはり全盲のバイオリニストの和波孝禧さんは「驚異的。自分で何かを表現しようと一心不乱に集中していく力がすごい」と絶賛する。
 辻井さんは誰からもかわいがられる人なつっこい性格。和波さんは「大変なキャリアを得たのだから、障害者であることに甘えずに、さらに自分と音楽とを磨いてほしい」と先輩としてエールを送った。【梅津時比古】
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 ■ことば
 ◇バン・クライバーン国際ピアノコンクール
 1958年にモスクワで開かれた第1回チャイコフスキー国際コンクールで優勝したアメリカのピアニスト、バン・クライバーンさんを記念して、1962年に創設された。テキサス州フォートワースで4年ごとに開催されている。世界的にもハイレベルのピアノコンクール。
2009年6月8日付(毎日新聞)
続きは・・・http://mainichi.jp/enta/art/news/20090608dde001040007000c.html

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