2007年11月18日日曜日

アトムと私 シリーズ

13)学校で講演 ご褒美は拍手
   「介助」披露、一生懸命な姿伝わる

大学4年生だった2004年秋、和歌山県内のラーメン店で、アトムも一緒に入ることができるか、友人に聞いてもらったことがある。すぐに店から出てきた友人は「オッケーだって」と、満面に笑みを浮かべた。

 身体障害者補助犬法はすでに施行されていたが、飲食店の壁は厚い。店長に尋ねると「娘の小学校に、介助犬と一緒に暮らす人が講演にきたことがあってね」と説明してくれた。講演内容を娘さんが両親に伝え、その恩恵に私は浴した。

 介助犬との暮らしを理解してもらおうと、私もアトムと生活を始めた直後から、小中学校などで講演をしてきた。読売新聞に入社してからも、車いすに乗るようになって気付いたことなどを話してきた。

 講演ではアトムにも出番がある。車いすの速度に合わせて歩く、落としたボールペンを拾う、車いすを引っ張るなど、日常の介助動作の一部を見てもらう。

 アトムにとってのご褒美はほめられることだ。子どもたちが拍手をしてくれようものなら、うれしくなってしっぽをブルンブルンと振る。気分が乗ってくると、車いすを引っ張るスピードも速くなる。

 今年6月に訪れた岐阜市の市立鷺山小学校では、落とした硬貨をアトムが拾って渡してくれる動作に、5年生の子どもたちがくぎ付けになった。「硬貨の受け渡しに失敗しても、何度も挑戦するアトムの一生懸命さに、子どもたちは感動していたようです」と小川豊子教諭(45)。

 後日、送られてきた手作りの新聞には〈おたがい大切に思うどうしなんだと思いました〉〈車いすの人のできることを増やしてあげたいので、見かけたら手伝いたい〉などと書かれていた。「介助犬を理解してくれた人が、また増えた」とうれしくなった。

 10月4日の岐阜市立城西小学校での講演では、初めて取材の体験談を話した。アトムのいない取材でスロープに苦戦したこと、取材先で段差に泣かされたこと――。社会人1年生の自分が仕事の話をすることには後ろめたさもあったが、上司から「社会人、新聞記者として、どう働いてるかを伝えることにも意味がある」と言われ、思い直した。

 講演後、女児の1人に質問された。「今一番がんばっていることはなんですか」。「仕事を覚えることです」と答えた。

 本当はこの後に「失敗ばかりの毎日だけれど、いつかは、だれかの生活が一歩でも前進するような記事を書きたいと思っている」と付け加えたかったが、気恥ずかしくて言えなかった。

(2007年11月1日 読売新聞)

続きは・・・http://www.yomiuri.co.jp/feature/atom/fe_at_07110101.htm

0 件のコメント: