2007年11月18日日曜日

アトムと私 シリーズ

(11)「愛犬 正社員といたします」
    働きやすい環境づくり

「館林君。事故、障害を乗り越えて、精神的な努力に大変な肉体的な努力もあっただろうが、あなたが入社されたことを読売新聞としても誇りに思っております。その愛犬のアトム君、辞令を用いず、本日、正社員といたします」

 2007年4月2日、読売新聞東京本社の入社式。読売新聞グループ本社の渡辺恒雄会長・主筆のあいさつの最後に、突然、名前を呼ばれて驚いた。私は68人の同期とともに社会人のスタートを切った。

 赴任先は名古屋市の中部支社社会部。支社では私を受け入れるため、緩やかなスロープ、車いすで入れる広さのトイレを設置してくれた。エレベーターには後方確認のための鏡、挟み込み防止センサー、低位置の操作盤も取り付けられた。

 特にトイレ内には、高さ50センチの流しが設けられた。アトム専用のトイレだ。ここにシートを敷くと、アトムは飛び乗って用を足す。車いすと同じ高さだから、私も後片付けをしやすい。アトムは当初、高さに戸惑っていたが、2~3度練習するとすぐに慣れた。

 出勤初日、緊張で顔をこわばらせて席に着くと、先輩記者が「動きやすいように、これでもみんなで整理したんだよ」と話しかけてくれた。車いすで仕事ができるように大ぶりの机を用意し、エレベーターから机への動線を確保するため、掃除をしてくれたのだという。

 社内掲示板には「アトムに触らないで。食べ物を与えないで」という注意書きも張り出された。

 仕事をするには工夫が必要だった。私は電話機を操作することはできるが、手先が不自由なため、薄いコピー用紙などはうまくつかむことができない。そこで、用紙をつかみやすいようにと指サックをもらった。運ぶ際は、車いすの操作で両手が使えないため、用紙はひざの上に載せ、落ちないように携帯電話などを重し代わりに載せた。

 移動に使う介護タクシーは台数が限られているので、突発的な取材などに対応してもらうのが難しい。その中で、タクシー会社「つばめグループあんしんネット21」の守山営業所(名古屋市守山区)は体制を整えてくれた。同営業所は介護部門を担当、所属ドライバー約80人のうち50人はヘルパー2級の有資格者だ。

 「館林さんは、車いすだけでなくアトムもいる。こちらも勝手が分かっていたほうがいいので、慣れている運転手を中心に10人ぐらいで回すようにした」と、同営業所の田中英雄常務(52)。

 会社は働きやすい環境を整えてくれた。後は、私の頑張り次第なのだが、取材現場ではいくつもの壁にぶつかった。

(2007年10月30日 読売新聞)

続きは・・・http://www.yomiuri.co.jp/feature/atom/fe_at_07103001.htm

0 件のコメント: