2007年11月18日日曜日

アトムと私 シリーズ

(14)車いす取材 人の力に
    仕事ほめられ 感じた誇り

新人の同僚記者2人が、事件や事故の取材に奔走する中で、私は自分のすべきことが分からないでいた。

 「どういう取材方法がいいのだろう」。名古屋市の中警察署で別の新聞社のベテラン記者に何気なく話すと「この間、読売にいい記事が載っていたよ。あんなのを書けばいいやん」。

 落語に魅せられた知的障害のある青年が、テープやCDを聞いて覚えた落語をイベントで披露するという話題だ。私が書いた記事だった。ヘルパーの女性から「イベントのビラが張ってあった」と聞いたのがきっかけで取材した。ベテラン記者にほめられたようで、うれしかった。

 入社後わずか半年だが、様々な人に出会った。

 全身の筋力が徐々に衰える難病、筋委縮性側索硬化症(ALS)の患者が、新薬の健康保険適用を求める署名活動をするという。「事前に記事にしてみないか」と上司のアドバイスを受けたが、病気のことも新薬の効能も保険適用の制度も分からない。

 取材窓口の小早川尚子さん(49)(名古屋市)に連絡を取り、生活のことなどを尋ねた。小早川さんは握力が3キロ程度で、立ち上がることも難しいというのに、親切に対応してくれた。それでも「取材が足りない」と上司から言われ、別の患者や新薬の有効性を研究している医師、製薬会社の取材を重ね、記事を書き上げた。
 後で知った話だが、小早川さんは、私が新聞記者になったことを紹介したテレビ番組を見て、社会部に取材を依頼してくれたという。「同じ車いすに乗っている人間として、私たちの苦しみをくみ取ってもらえるのではないかと思って」と小早川さん。

 後日、届いた手紙には〈メディアの力は大きいです。そのメディアがマイノリティー(少数派)の味方であることを大変うれしく存じます。命ある限り、チッポケな私たちの出来ることをやっていきたいと思います〉と書かれていた。

 小早川さんたちの思いを、どれほどの人に伝えられたのかは分からない。しかし、伝えなければいけない仕事に就いているんだ、と改めて思った。

 先日もうれしい話を聞いた。愛知県内にある障害者の職業訓練所を取材で訪れた時、私の姿を見た精神障害のある21歳の女性が「障害があってもできることがあるんだ」と、喫茶店で働き始めたという。

 「あなたのできることは、記事を通して何かを伝えるだけにとどまらない。人と出会う機会の多い、いい仕事を見つけたね」。連絡してくれた訓練所の指導員はこう言ってくれた。仕事への誇りを感じた。

(2007年11月2日 読売新聞)

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