2008年1月9日水曜日

障害者支援 (上)排除から共生へ 医療・福祉充実を

「我が身になって考えて」「複雑な思い」

 名古屋市昭和区の住宅街に張られた施設建設反対のポスター
 
 精神・知的障害者の福祉施設建設に反対する住民運動について、昨年11月に紹介したところ、読者から多数の意見や感想をいただいた。反響を手がかりに、だれもが安心して暮らせる社会のあり方を模索した。(安田武晴、写真も)


思い
 
 「反対する人たちは、自分や我が子に障害があったら、どうするのでしょうか?」(富山市の増井久代さん、46歳)
 寄せられたお便りは、精神、知的障害者を地域から排除すべきではないという意見が大半を占めた。

 怖いと言って反対する人の不安に対して「一般の人が考えるほど心配はない。施設に通える人は、まず大丈夫」とメールをくれたのは、岩手県奥州市の精神科医、胡青余(こせいよ)さん(38)。医師になって6年たつが、アルコール依存症患者や知的障害者から暴力を受けたことは一度もない。
 胡さんは、中国・上海の出身。「少数の在日中国人が悪いことをしても、中国人を街から締め出すことはあってはいけない。障害者の福祉施設も同じではないか」と話した。


 知的発達障害のある娘を持つ横浜市の西田正子さん(50)も、「すべての人が安心して生活できる世の中になってほしい」と切望する。


 一方、関東地方に住む女性は、障害者施設の建設について「私は反対です」と断言する。
 近所に住む精神障害者から、「出てこい」とどなられるなどしたという。警察や役所、保健所にも相談したが何もしてもらえず、「今もおびえながら暮らしている」と話す。
 精神科に通院している福井県内の女性は、「精神障害者が引き起こした事件の報道が、不安を与えていると思う。私自身も、親から『怖い』と言われたことがある」と打ち明ける。
 自閉症の子を持つ親から来たメールでは、「もし自分の子どもに障害がなかったら、反対する人たちと同じ考えを持ったかもしれません。でも、子どもの将来を考えた時、この子たちが地域から孤立したらと思うと……」と複雑な気持ちをつづった。

孤立

 精神、知的障害者の施設建設反対についての記事(昨年11月)に、読者からたくさんの反響が寄せられた

 精神障害者の立場で、厚生労働省社会保障審議会の部会委員を務めた経験を持つ広田和子さん(61)は、「犯罪や自殺、他人に迷惑をかけるケースでは、精神障害者が地域社会から孤立している場合が多い」と指摘する。

 入院する必要がない精神障害者の中には、だれにも相談できず、支援が受けられずに困っている人もいる。福祉施設は、こうした人たちを支える役割があるが、地域住民の反対で建設が進まない状況が続けば、社会全体にもマイナスだ。

 施設整備も重要だが、それだけでは不十分だ。広田さんは、「高齢者の孤独死も、背景には社会からの孤立がある。精神障害者や一人暮らしのお年寄りに、『こんにちは』と声をかけるなど、地域の“温かいまなざし”が必要ではないか」と話す。

社会復帰

 見ず知らずの男(38)に息子を殺害された高知市の矢野千恵さん(58)もメールを送ってくれた。
 長男の真木人さん(当時28歳)は、2005年12月、高松市内で、男に突然、包丁で胸を刺され、死亡した。男は、同市内の精神科病院に統合失調症で入院していたが、医師の許可を得て外出中だった。

 「二度と同じ悲劇を繰り返してほしくない」。悲しみと怒りを感じながらも、矢野さんは、日本の精神障害者の置かれた現状を調べた。「精神、知的障害者は、できる限り健常者とともに社会で生きていけることが必要だと思います」と矢野さん。「そのためには、重い患者が適切な治療を受けられるよう、医療の質を高めてほしい。同時に、軽い人の社会復帰を促進する医療、福祉サービスも充実させてほしい」と訴える。

2008年1月8日付 ( 読売新聞)

続きは・・・http://www.yomiuri.co.jp/iryou/kyousei/saizensen/20080108-OYT8T00393.htm

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