2008年1月9日水曜日

障害者支援 (下)手厚い福祉で 住民不安も解消

知的障害者の再犯防止

 障害者就労支援施設の農場で作業をする男性(右)。2006年12月に刑務所を出所し、南高愛隣会で支援を受けている

刑務所

 「刑務所が、障害を持つ人のセーフティーネット(安全網)になっている」
 昨年10月、長崎県島原市で開かれたシンポジウムで、我が国の知的障害者支援の草分けとして知られる社会福祉法人「南高(なんこう)愛隣会」の田島良昭理事長は、こう語った。障害者福祉の向上を目指したこのシンポでは、障害者の自立を促す就労支援とともに、罪を犯した障害者の地域生活支援をどうするかが大きな議論となった。

 ――これまでの人生の中で、刑務所が一番暮らしやすかった……こんな恵まれた生活は、生まれて以来、初めてだよ――

 一緒に登壇した大塚晃・厚生労働省障害福祉専門官は、ノンフィクション作家山本譲司さんの著書『獄窓記』から、刑務所に入っている障害者の言葉を引用し、「(福祉に携わる者として)非常に複雑な思いを抱く」と明かした。

 椿百合子・法務省成人矯正課課長補佐も、「刑務所を出ても、帰りを待っている人がいない、帰る場所がない、働く場所もない。そういう環境で、『刑務所のほうがよかった』と思ってしまうのだろう」と語った。

再犯の構図
 家族から見放され、福祉の支援も十分に受けられない知的障害者は少なくない。生活に困り、盗みや無銭飲食などを重ね、刑務所に入る人もいる。法務省の統計では、毎年、新受刑者の2割程度、約7000人に知的障害があるとされる。

 厚労省の研究事業で行ったサンプル調査では、知的障害やその疑いのある受刑者410人のうち、知的障害者に都道府県から交付される「療育手帳」を持っていたのは、たったの26人だった。通常、手帳がないと、出所後に福祉サービスを受けられない。

 2001年に都内で女性が刺殺された事件や、06年に山口県下関市内でJR下関駅舎が放火された事件の犯人は、いずれも知的障害があるとされた。都内の事件は無銭飲食で服役、下関市の事件は放火未遂で服役し、出所後間もなくの犯行だった。障害者福祉の関係者の間では、「福祉の支援があれば防げたのではないか」という見方が強い。

橋渡し
 南高愛隣会では、06年12月、厚労省の委託で、知的障害者を対象にした再犯防止のモデル事業をスタートさせた。地域社会で暮らせるよう、状態や能力に応じた訓練をするだけでなく、生活保護の受給や療育手帳の取得など、必要な福祉サービスとの橋渡しをしようというものだ。

 現在、受け入れているのは、窃盗などで服役していた男性(45)、覚せい剤の常習者だった女性(29)、放火などの犯罪歴のある女性(56)の3人。松村真美・同会常務理事は、「3人とも家族の支援が期待できない。犯行に至った背景を見極めながら、本人に最適な支援方法を見つけるには2~3年かかる」と話す。

 障害者の就労支援を行っている東京都世田谷区立砧(きぬた)工房の中野雅義施設長(51)は、「支援が行き届かない障害者が、罪を犯してしまう状況に追い込まれている」と指摘する。知的、精神障害者の施設が、近隣住民にとって不安要因であり続ける背景には、日本の福祉の貧困さがある。
 南高愛隣会の田島理事長は、「知的障害者や精神障害者の中に、反社会的な行為をする人がいるという事実に目をつぶってはいけない。福祉がセーフティーネットを張って防ぐことができれば、住民の不安も解消されていくはずだ」と強調する。

2008年1月9日付(読売新聞)

続きは・・・http://www.yomiuri.co.jp/iryou/kyousei/saizensen/20080109-OYT8T00296.htm

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